匠弘堂で働く宮大工や設計技術者たちによるリレーブログ。

新卒で入社した設計営業スタッフのTさん。元々は住宅建築の道を志していた彼女が、社寺建築を選んだのにはどういった理由があったのでしょうか。社寺建築や匠弘堂への思いを、一つひとつ丁寧に言葉を選びながら、穏やかではありながら熱い情熱を持って語ってくれました。

ものづくりが好きだった幼少時代。建築に興味持った。

小さい頃から手を動かして、何かを黙々と作ることが好きでした。工作をしたり、絵を描いたり、時間を忘れてしまうくらい夢中になって、何かしらを作っていた気がします。その頃から、自分の手で何かを作り出すことにとても喜びを感じていたので、昔からものづくりにはとても興味を持っていたんだと思います。

実は、建築に興味を持ったのも子供の頃なんです。

当時、父が「住人十色」というテレビ番組を楽しみにしていて、その影響で父と一緒にわたしも毎回その番組を見るようになりました。「住人十色」は、こだわりのお家や建築物を紹介する番組で、日本各地から1軒の家を訪れ、家主さんがご自身の家へのこだわりや魅力を語ってくれるというものです。番組を見ながら、「住宅建築」って素敵だな、と思ったことをよく覚えています。

特に「今住んでるお家や何気なく利用している建物にも、一つひとつ、家主さんや設計者さんたちの思いやこだわりがある。」それに気づいたとき、それまで気に留めていなかった「建物」に対する見方がガラッと変わりました。

「紹介される建物それぞれに思いやストーリーがたくさんある」それを知ることによって愛着がどんどん湧いてきて、より魅力的に感じるようになっていきました。

鑿

ショックだった東日本大震災ーー建築の道に進むことを決めた

実際に建築の道に進みたいと思ったきっかけは東日本大震災です。

震災が起きた当時、現地の状況が連日報道され、テレビでたくさんのお家が濁流に乗って木々と一緒に流されている映像を何度も見ました。同じ国で起きたこととは思えないような景色が写っていて・・・家主のこだわりと愛情がたくさん詰まった家々が、いとも簡単に濁流に飲み込まれる様子に強い衝撃を受けました。

ほどなくして、進路について考え始める時期になりました。

その時に「家主のこだわりや希望を形にし、何より災害にも負けない強い建物を作ろう。そのために建築の道に進もう」と思いました。

あの時のことは今でも鮮明に覚えています。わたしにとって「忘れてはいけない出来事」の一つです。

長く愛される、思いの詰まった建築物に惹かれた

建築業界を志したきっかけが住宅建築だったので、当時は住宅建築の道に進みたいと思い、建築や住環境について学べる大学に進学しました。

建築について学んでいく中で、日本建築史の授業をきっかけに住宅建築の中でも特に町家や古民家のような、伝統建築に近いものに興味を持つようになり、古民家や町家を扱う会社には見学にもいきました。しかし、実際の現場では使用材料も含めて現代的にアレンジされていて「自分は本当にこの分野に進みたいのだろうか」と考え、思い悩むようになってしまいました。

そんな時に、社寺建築の魅力を知りました。

一般的な家屋以上に長い時間、世代を超えて多くの人々に愛され、想いが蓄積されていく・・そして、何百年も使い続けられる建物だということを知り、そんな建築物ってとても素敵だなと思ったことをよく覚えています。

就職活動で匠弘堂に出会い、見学に行った際、技術や様式はもちろん、これまで先人たちから代々受け継がれてきた道具や、知識・知恵の積み重ねを設計と施工の両方で大切にされていることに強く感動しました。そこに、匠弘堂の方々の先人たちへの大きな尊敬の念を感じ、「この業界で思い描いていた建築のお仕事に挑戦したい」と、社寺建築業界を志すことを決めました。

宮大工の道具

心に響いた「見えないところほど気配りを」

岡本棟梁の「十二の教え」は、どの教えも心に響くものばかりですが、中でも「誠」の「見えるところは当たり前、見えないところほど気配りをせなあかん。それが建物を強固にし、 百年、二百年と美しさを保つことができるんや。解体しても恥ずかしぃない仕事をせなあかん。」 という言葉が特に好きです。

その頃、授業で基礎工事が正しく行われていなかった建築物の事故の話を聞きました。建築は、見えなくなる部分で手を抜いても、解体する時や事故が起きてからでないと気づくことができない部分があることを知り、見えなくなる部分がいかに大切なのかを学んだばかりだったので「見えないところほど気配りをしなければならない」という考え方にとても感激しました。

ちょうど就職活動中にこのお話を聞けたこともあり、こういった考えを持った方々に一生ついていきたい、匠弘堂で働きたい!と強く思いました。念願が叶い入社することができて、心から嬉しく思っています!

相手を思いやることは、匠弘堂の文化だと思う

匠弘堂は人として本当に素敵な先輩ばかりで、社員全員が自然に他の人に思いやりを持って接していることをいつも感じています。

例えば、休憩室のソファーに埃がついている場合には、他の人の服が汚れないように最高齢の北村さんがこまめに掃除してくださるんです。加えて、ストーブの周りがとても熱いので、2年目の稲葉さんが匠弘堂や他の皆さんが近づきすぎないよう休憩時間には囲いをつけてくださったり、わたしが重いものを運ぶのに困っていた時には、6年目の小島さんが代わりに運んでくださったりすることもありました。

新人である自分がやらなくては!と思っているようなことでも、何年も先輩である皆さんが率先して手を差し伸べてくださるので、自分ももっと先回りしてできるようになりたい!と日々皆さんのために何かできることはないか、わたしも自然に探すようになりました。

あるとき小島さんが、「相手が『こうして欲しいんだろうな』と思っていることを予想してして動くことが大切だ」と先輩から習ったと教えてくださいました。その教えが皆さんに浸透していているからこそ、お互いが思いやりの気持ちを持って相手に接する雰囲気ができているのだと日々実感しています。

オフィスのデスク

匠弘堂の良さをたくさんの人に伝えていきたい

今はサポート役が多いですが、まずは設計技術者として一人前になって会社に貢献できるようになりたいです。実は今、朝礼前や帰宅後の時間を使って資格試験の勉強に取り組んでいます!

他の取り組みとして、社内のコミュニケーション施策の一つでLINEスタンプの制作を行なっています。現場の方と事務所の方がもっと意思疎通をしやすくするために、何かできることはないかという提案がきっかけで、今は中心となって制作を進めています。

はじめは、事務所の方からスタンプに使用する素材画像をいただいたのですが、「もっとみんなが使いやすいスタンプにするにはどうしたらいいか」を考え、宮大工さんへアンケートを行いました。

その結果、スタンプに使ってほしい画像を予想以上に多くいただけただけではなく、よく使う言葉も教えていただくことができました!スタンプ作りを前向きに捉えてくださったこと、快くご協力いただけることがとても嬉しかったです。いただいた意見を反映させて、事務所と宮大工の方々とのコミュニケーションがより円滑になればいいなと思いながら、リリースに向けて頑張っています。

また、以前合同就職セミナーへ横川社長と同行させていただいた際は、準備としてパネルやフライヤーを制作しました。横川社長が撮影したものをメインイメージで使用させていただいたのですが、横川社長が撮影されたお写真がどれも素敵で、今回はその中でもわたしが特に気に入ったものを大きく使用させていただきました。

セミナーの当日は、横川社長のアシスタントとして参加したのですが、自分も何かできることはないかと思い、展示のために持参していた金輪継ぎのサンプルを外したりつけたりするような体験を学生さんにしてもらい、たくさんの方に見ていただくことができました。

薬医門の模型にもたくさんの学生さんが興味持ってくださって、それがきっかけでお話ができたこともとても嬉しかったです!

他にも、宮大工の仕事や匠弘堂の良さをたくさんの人に伝えるために、今後はyoutubeやSNSのようなコミュニケーションツールを用いた情報発信にも積極的に参加し盛り上げられるように尽力します!

図面を作成する様子

心からの信念と努力で乗り越えようとする。そんな人と働きたい。

「建築」といっても色々あると思います。わたし自身、宮大工になりたいと思った時もありました。お仕事として魅力的な一方、性別や体格上難しかったり、いろんな要素で「なりたい気持ち」だけではなれない場合があります。

そんな「適応」「不適応」といった壁が立ちはだかったときに、それを努力で乗り超えられる、自分が進みたいと思った道を突き進める人はとても素敵だと思います。

わたし自身も、努力を積み重ねて自分の目指す社会への貢献の仕方やあり方へと突き進めるように、強い信念と根性を持って仕事をしていきたいと思います。心のどこかで「本当は嫌だな」と思いながらお仕事をするのではなくて、本当に心から好きで、やりたい、もっと頑張りたいと思いながら、前向きに取り組める方々と切磋琢磨しながら共に良いものづくりが出来ればとても幸せだと思います。

良質なものづくりへの強い信念と活気あふれるパワーを持った匠弘堂の先輩方に、たとえ微力であったとしても力になれる、役にたてるように益々精進します。