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2019.05.03

【寄稿記事】社寺建築が大好きな私が感じた、匠弘堂の職人の心【Design Week Kyoto 2019レポート/後編】

2019年2月23日 – 24日、匠弘堂はDesign Week Kyotoのオープンファクトリーに参加しました。Design Week Kyotoは一般の方々にものづくりの現場の門戸を開き、そのプロセスや臨場感を体験できる貴重な機会として京都では2016年から開催されています。匠弘堂は今回初めて参加いたしました。

なかなか一般の方に働く姿をお見せする機会のない宮大工にとって、仕事の断片をお見せできる、またとない機会です。今回は、前半と後半に分けて、前半は弊社の会議室にて「社寺建築入門:脈々と受け継がれる木の文化」と題してレクチャーを、後半は、宮大工のお仕事の見学と、ワークショップを行いました。

Design Week Kyotoにご参加いただいたSさんから、オープンファクトリー後半の工房見学とワークショップについての詳細なレポートを寄稿していただきましたので、ここでご紹介させていただきます。

(以下、参加者Sさんによる寄稿文)


初めまして、オープンファクトリーに参加させていただいたSと申します!

もともと日本の職人仕事全般に対して興味があり、神戸の竹中大工道具館というマニアックな博物館(その名の通り、大工道具がいっぱいあります)などが大好きだった私ですが、京都市内全域で開催される、ものづくりの現場を体験できるイベント「Design Week Kyoto」の一環として、宮大工さんのお仕事を見学させていただくという機会があると聞き、迷わず申し込んでしまいました。

前半のレクチャーでは、宮大工さんのお仕事の全容や、代表的な道具や技術のことなどを教えていただいて、すでに十分興奮していたのですが、工房見学とワークショップと続いた後半戦について、私が心から楽しんだ体験のことをレポートさせていただきます!

まずは、棟梁の有馬さん自ら、匠弘堂さんが今現在、携わっている物件や、現場から工房に持ち帰って作業されている部材を例にとり、写真を使って、宮大工さんのお仕事についてご説明くださいました。

丁寧な仕事は、綿密な算段が大前提!

まずお話くださったのは、450年くらい、つまり安土桃山時代に建てられた多宝塔の曳家(移動)の事例。匠弘堂の宮大工さんたちが、多宝塔という5~6トンほどもある建物をどうやって移動させたのか、みなさんも気になりませんか?

なんでも多宝塔は、柱に傷がつかないような状態にして、ジャッキで建物全体を上げ、その下にレール(道)を作り、「コロの原理」を使って曳く(ひく)のだとか。

多宝塔の移動について写真を使って説明してくださる有馬棟梁。移動に耐えられるよう、屋根の周りに骨組みが組まれています。

コロの原理とは、古代から使われている重量物を移動させるための方法で、丸太などの長い円柱を移動したい物の下に何本も入れて、その上をコロコロと転がすこと。私にはトンを超えると途端に動かせる気がしなくなりますが、コロの原理を使うと、5〜6トンもある多宝塔が、150Kg以下の力で、およそ大人2名で簡単に曳けるのだそうです。

とはいえこの多宝塔、15mほど動かすのに、3週間かかったとのこと。建物をジャッキで持ち上げたり降ろしたり、引っ張るだけならそれほど長くかからないそうですが、貴重な建物ですので、一つひとつ綿密に、丁寧に計画するのにそれだけ時間がかかったのだそうです!

不利な環境を生き抜いて、木も人も強くなる!?

次に見せていただいたのは、400年ほど前に建てられた別のお寺さんの案件で、修繕のために持ち帰られた部材の切り口。

雨に当たりやすい浜縁(神社などの階段下にある縁または床)の高欄(建物の縁などの端にある手すり,欄干)に使われていたケヤキ材で、外側は見事にボロボロになっていたのですが、切ってみたら中はこんなに綺麗だったそうです。

中は朽ちることなく綺麗なままの木材。400年前の香りがしそうです!

「これは、木がどれだけ『生きる』か、ということ。」と有馬棟梁はおっしゃいました。

おそらく樹齢200年から300年くらいの大きなケヤキの木が、約400年前に材料として切り出されたのだろう、とのこと。

考えてみると、「木の死」というのは不思議なものです。切り倒されても、呼吸をしたり、乾燥したかと思えばまた湿気を吸って、軋(きし)んだり撓(しな)ったりしている限り、その木は、「死んで」はいないようです。切り倒されてもなお木は生きて、何十年も、いえ何百年も、ボロボロに朽ちて土に還るときまで、建物の一部となったり橋となったりして私たちの暮らしを支えてくれるのですね。

一方、すべての木が長持ちするということではなく、樹齢が高い木や、寒かったり日が当たりにくかったり、栄養分が乏しいなど厳しい環境で育った木のほうが、長持ちするのだそうです。人間と同じで、温室育ちよりも不利な環境を生き抜いた木のほうが、たくましいのですね。

建物の至るところに見られる「祈り」

次に見せてくださったのは、こちらの部材。懸魚六葉(げぎょろくよう)というそうです。前半のレクチャーで、伝統建築の技術やパーツの名前には生き物の名前が多いと教えていただきましたが、ここにも「魚」が出てきました!

懸魚六葉

これが破風(はふ:屋根の端の八の字型の部分)に取りつく懸魚六葉。確かにこういうの、お寺などでよく見ます。

この懸魚六葉は、建物の構造上、機能的な意味はほとんどないと言いますが、それでも取りつけられる象徴的な意味として、とても興味深いことをおしえていただきました。実はこの懸魚六葉、“火除け”の願いを込めてつけられるというのです! なぜでしょうか。

まずこの六角形の部分に注目してみてください。六角形の対角線、つまり角と対角の角を結ぶと、3本の線ができますよね。この懸魚では、その3本の対角線が掘り出されて少し盛り上がった状態になっています。これをじっと見ていると、何か見えてきませんか?

懸魚六葉

そう、漢字の「水」です。実は、私の住む築100年の古民家にも、屋根の破風の下に「水」という文字が入っているので、すぐにわかりました!

屋根の下の「水」の文字。これと「懸魚六葉」が繋がっていたなんて。

なるほど、懸魚六葉はこれを図案化したもので、「火」に「水」が対抗することで火事を避けたいと願う、先人たちの祈りの表れなのですね。

さらに、出っ張っている部分も樽の栓に似ていることから、ここにも火除けの意味があるのだそう。「水」を湛えているイメージを、火除けに対する願いと結びつけたのでしょうね。

手仕事で行う一番の理由は、「楽しい」から!

さて、ここで体を動かす時間がやってきました。

職人さんが、鑿(のみ)で彫刻を施したり、斧(おの)や手斧(ちょうな)で木材を整えているところを見学させていただいたあと、実際に私たちも、手斧を使って同じ作業をさせていただきました! この作業、「斫り(はつり)」と言うそうです。

斫り(はつり)体験

手斧(ちょうな)を使って「斫り(はつり)」の作業を参加者全員でやってみました。

この作業、一見簡単なようでいて意外と難しいのです。私も2回もやらせていただきましたが、1回目は手斧を足に降り下ろさないかばかりが気になって、なんだか角度が安定しませんでした。肩の力を抜いて、あまり足は意識しないようにしたら、2回目は大分上手になったように思います。

手斧や斧を使って木材を整える作業は、機械でもできるのではないかな、という印象があったのですが、有馬棟梁はおっしゃいました。

「なぜ手でやるかという一番の理由は、楽しいから!」

えっ!!! 衝撃です。なんと力の抜けた回答でしょうか。

しかし結局のところ、それがもっとも本質的なのかもしれません。

手仕事で一つひとつ楽しんでやることの健やかさこそが、目先の効率性や生産性にとらわれることもなく、また守ることに疲弊もせずに、建物や木材が何世紀も生き続けることや、それらが社会や人の暮らしの一部になっていくことへの願いを叶えてくれるのでしょう。

最後に私たちは、一人ひとり鉋がけを体験し、(おそらくすべての参加者にとって)人生最薄の制作物に満足して、内容の濃いオープンファクトリーを終了しました。


工房を挙げて、非常に貴重な機会を与えていただき、たくさんの学びを得ることができました。

横川社長、有馬棟梁、宮大工のみなさん、本当にありがとうございました!

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