[ コラム ]
設計士 宇塚担当
社寺建築観察日記【第4回】比叡山延暦寺
いわずと知れた聖地 比叡山延暦寺。
創建は788年で、最澄が建てた一乗止観院が起源とのこと。
現在では、真言宗とならぶ密教としてのイメージが強いですが、
円、戒、禅、密(=密教)という4つの要素から成り立つ多様な思想の宗旨です。このため、鎌倉仏教の宗祖の多くは、比叡山出身です。
深い歴史がある比叡山ですが、数々の戦禍によって多くの建物が失われています。
転法輪堂(南北朝時代、三井寺からの移築)、瑠璃堂(室町時代)などが、古い時代の建物として残っています。
転法輪堂(=釈迦堂、南北朝時代)
瑠璃堂(室町時代)
瑠璃堂は、1571年の織田信長による焼き討ちを免れた唯一の建物だそうです。
建物を下から見ていくと、礎盤、丸柱、花頭窓、桟唐戸、貫、木鼻、台輪、詰組など、禅宗様の特徴を示します。
一方で、屋根に目を向けると、垂木は平行で比較的まばらです。軒の反りはそれほど強くなく、妻壁が大きめです。
繊細な軸部と、おおらかな屋根が対照的であり、全体としては優しい印象のお堂で、一見の価値ありです。
いちおう観光地図には載っていますが、へんぴな場所にあり、ドライブウェイを横断して山道を歩かなければたどり着けません💦
訪問される際は、十分にご注意ください!
比叡山は、古い建物が少ない一方で、近代に建てられた優れた建築が数多く立ち並んでいます。
法華総持院東塔
阿弥陀堂
美しい蟇股です。
浄土院 平唐門
そして、大書院(登録有形文化財)です。
通常非公開のため普段は少し離れた場所からしか見ることができません。
それが、2019年秋~冬、数年ぶりに公開されておりましたので見学に行ってまいりました。
所在地 :滋賀県大津市坂本
建築年代:昭和3年(1928)
設計 :武田五一
大書院 外観
玄関唐破風
欄間
欧風意匠の照明
ガラス戸の花頭曲線
旭光の間のしつらえ
この建物は、東京赤坂山王台にあった村井吉兵衛の邸宅を移築したものです。
村井吉兵衛は、明治大正の実業家で、煙草製造販売を行ったことで知られています。京都円山公園に隣接する長楽館も村井吉兵衛の別邸でした。
比叡山大書院は、書院造、数寄屋造の要素を織り交ぜながら近代らしいデザインが随所にみられる名建築です。
細部には、欧風のデザインも見られますが、日本のデザインとよく調和しています。
次の公開がいつになるのか・・・待ち遠しいです。
書き手:宇塚(匠弘堂・設計士)