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[ コラム ]

設計士 宇塚担当

社寺建築観察日記
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2020.08.25

【第6回】長谷寺① 国宝本堂での朝勤行

2019年のお盆、奈良県桜井市初瀬にある長谷寺に行きました!
長谷寺は、奈良時代創建(8世紀前半ころ)の観音信仰の霊場として栄えた真言宗豊山派総本山のお寺。西国三十三所の第8番札所として著名です。
初瀬(はせ、はつせ)山の中腹に境内が広がり、蛇行する登廊(のぼりろう、重要文化財)を歩きながら、山中に点在する建物をめぐることができます。
境内には、国宝の本堂のほか、仁王門、鐘楼、本坊(以上、重要文化財)や、近代建立の五重塔や御影堂など、多数のみどころがあります。
牡丹の名所としても知られています。

本堂について

現在の本堂は、慶安3年(1650年)の再建で国宝に指定されています。本堂前面(山側)は懸造(かけづくり)で、斜面にせり出した舞台を備えています。京都清水寺の舞台ほど大きくはありませんが、眼前は見渡すかぎりの緑で絶景です。
平面(間取り)を見てみると、正堂・相の間・礼堂によって構成される珍しい形です。相の間は通り抜けできる通路のようになっています。短時間のお参りは相の間でなされます。礼堂は、その名の通り、礼拝のための空間。そして正堂には、ご本尊の十一面観音様がお祀りされています。こちらのご本尊は、本堂とともに過去に何度も消失しております。快慶作の仏様であった時代もあり、現在の仏像も、快慶の指図をもとに造仏されたものだそうです。

本堂外観(斜め後ろより)

手前の大きな屋根(二重に見える部分)が正堂、その奥が礼堂

舞台の構造

足元に瓦が葺かれているのが印象的です

強雨のなかの境内

左手に見えるのが本堂

境内全体が斜面にあり、本堂は特に大きい建物ですので、麓の町のところどころからも拝むことができます。

麓の町からの眺め

中央上部、山の中に見えるのが本堂

長谷寺の朝勤行

さて、2019年8月15日から16日にかけて参拝させていただいたわけですが、台風が日本列島を縦断したちょうどその夜でした。
麓の旅館に一泊して台風を無事やりすごした朝に、勤行に参加させていただきました。朝6時すぎ、仁王門の結界の脇を抜け、静かな石段をのぼり本堂へ向かいます。境内では、地元の方と思われる数名が散歩をしたり、登廊途中で休んだり、本堂相の間で参拝したりと、日常の光景が見られました。観光地というよりは地域に根差す寺院の様相です。

通常、門の手前で拝観料を納めますが、朝勤行参加の場合は門ではなく本堂で受付していただきます。

朝の登廊


真夏の、台風一過の湿度の高い山の中。早朝とはいえ、長い階段(399段)を上り汗ばみます。
この日の朝勤行の参加者は10名ほど。勤行についての僧侶の方の解説をききながら、開始時刻を待ちます。

礼堂から見る山

朝勤行の内容は大きく以下の2つです。
①正堂内本尊周囲において、10名ほどの僧侶さまが座り、各種読経を行います。
②その後舞台へ移動され、周囲の山や神社などへ遥拝されます。

①の読経は、太鼓などの楽器を使い強弱をつながら、叫ぶように力強く行われます。本堂内の広い空間にお経が響きわたります。九條錫杖経、般若心経、妙法蓮華経観世音菩薩普門品第二十五を読経されます。
②は、舞台の上で、遥拝の対象となる境内の奥の院、五重塔、御影堂や、長谷寺の向かい側の山、神社、などの都度方向を変えながら、こちらも大声で神仏の名や真言が唱えられます。

舞台から見る五重塔

本堂縁から見る山

舞台から見る境内

朝もやが立ち昇る周囲の山々に向かっての礼拝も、昔生きた人々の観音様への信仰の強さと自然への畏怖が形になって現れているように感じました。
これは、私の文章力では表現できませんので、ぜひ朝勤行に参加していただきたいと思います。
朝勤行は、いったい何年、合計すると何回続けられてきたのだろうか・・・
と思い、長谷寺HPを見てみると、
このような形の祈りは1000年以上前から行われており、平城遷都1300年(2010年)を契機に、一般の参拝者も参加させていただけるようになったそうです。大変ありがたいことです。

現代は、自動車があればどこへでも簡単に参拝に行けてしまいます。しかし、昔の人はそうではなく、聖地の多くは険しい山道を登らなければたどり着けないような場所だったと思われます。
それでも、参拝に行く人々が大勢いました。

多大な時間と労力をかけてやっとたどり着くことができる場所は、今以上に特別で切実な意味を人々は感じていたのではないか、
ということを朝勤行に参加させていただいて思いました。

社寺建築というのは、いうまでもなく宗教のための建築です。
仕事で社寺建築に携わっていながらも、その建物が実際に宗教の中でどのように使われているのか、ふつうの日常生活を送っている中では知る機会なく、その全貌はなかなか掴むことができません。

長谷寺朝勤行のように、宗教行事を一般に向けても開いていただけることは、建物の機能を考える上でもとてもいい経験となります。
山岳信仰のお寺では、斜面にせりだす舞台はこのように機能するのかと、とても腑に落ちた朝でした。

またの機会に、長谷寺②として、近代の建築を取り上げさせていただきたいと思っております。

このコーナーは匠弘堂の設計技術チームが担当しています!次回もお楽しみに。

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第4回記事はこちら
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書き手:宇塚(匠弘堂・設計士)

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