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[ コラム ]

設計士 宇塚担当

社寺建築観察日記
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2020.05.11

【第5回】春日大社の建築群

今回は、奈良市にある春日大社を紹介します。

広大な森と、その中のいくつもの建築から成るこの神社は、他にはない独特の雰囲気を持っています。苔むした灯籠と木々の間を歩きながら次々に現われてくる優しいたたずまいの建築を見ていると、ゆったりとした気分になれます。

 

春日大社の紹介

本殿と回廊のある中心エリアは、観光雑誌やサイトで必ずといっていいほど写真が掲載されているので、きっと多くの方が目にしたことがあるでしょう。朱色がまぶしい色鮮やかな建築群です。境内に点在する摂社・末社の社殿も、聖地としての雰囲気を盛り上げてくれます✨

本殿廻廊

水谷神社

一方で、彩色を施さない白木(しらき)の「簡素な建築」もたくさん建っています。例えば、着到殿(ちゃくとうでん)、酒殿(さかどの)、竃殿(へついどの)、若宮神社の拝屋と細殿・神楽殿など。
鮮やかな色の建築と落ち着いた色の建築の明確な対比が、春日大社の魅力のひとつとなっています。

酒殿

若宮神社 細殿

 

神社建築を見るときのポイントについて

鮮やかなのか、簡素なのかという見た目の対比は、建築の役割の違いに直結します。

まず、以下の点を考えてみてください。

①神様専用の建築・空間なのか
②人間が儀式を行ったり、住み込んだりする建物・空間なのか

鮮やかな朱色の建築は、①神様の建築です。ご神体をお祀りする本殿、それを囲み聖域を示す廻廊、聖俗の境界の門などは、神様を主体とした建築です。

一方で、簡素な建築は例外なく、②人間の建築です。
神様へのお供え物を準備したり(酒殿)、参拝・儀式を行ったり(着倒殿、拝殿、神楽殿など)・・・・その建築における活動主体は、あくまでも人間なのです。

春日大社では、本殿のような神様の建築は豪華に作り、人間の建築は簡素につくるという序列がはっきり見られます。※1、※2

※1
神社によって、建築の仕様は異なります。古い形式の神社の中で、伊勢神宮、賀茂社、出雲大社などが白木であるのに対して、春日大社、住吉大社、宇佐八幡などは鮮やかな彩色を施します。
※2
時代が下るほど、人は神に近くなっていき、神として祀られる人も現われ、人間の建物がどんどん豪華になっていきます💦良くも悪くも人間の存在感が神様よりも大きくなってきます。

特徴的な意匠・構造からうまれる「建物の個性」

さて、今回は、多くの方が素通りしてしまうであろう、「簡素な建築」の特徴に注目します。

・全体的に部材は細い印象ではあるが、丸柱と長押はボリューム感がある
・柱には舟肘木をのせて桁を支える
・疎垂木(まばらだるき)と小舞(こまい)で構成する軽快な軒裏
・檜皮葺または杮葺の屋根
・獅子口(ししぐち)の上に鳥伏間(とりぶすま)がのるという珍しい納まり
 奈良のごく限られた建物でしか見たことがありません
(獅子口の場合、鳥伏間は使用しないのが一般的)

細身のプロポーション(若宮神社 神楽殿)

丸柱・舟肘木・桁の構成(若宮神社 細殿)

疎垂木と小舞による軽やかな軒裏(若宮神社 細殿)

獅子口に鳥伏間がのる珍しい形(竃殿(へついどの))

いろいろな角度から見ていて面白いのが、屋根の形が非対称のものが多いという点。
これは、実用面から間取りを決め、それに従って屋根を掛けた結果です。
壁で囲われた建物の間取りとその理由を屋根の形から考えてみるのは、日本建築の楽しみ方一つです。

着倒殿 参道下からの眺め(切妻屋根)

着倒殿 参道上からの眺め(入母屋屋根)

着倒殿 裏側の屋根の納まり

若宮神社 神楽殿 前後非対称の屋根

これらの特徴を積み上げると、どんな建築ができあがるでしょうか。
それは、社寺建築としての伝統的なつくり方をしていながらも、おおらかで、自由な創意があふれる建築といえます。様式分類には納まりきらない部分が、それぞれの建物の個性となってでてきます。

 

丸柱、長押、敷居、鴨居、舟肘木、丸桁、垂木、小舞、茅負、破風、扠首・・・
建築を形作るものを文字で書くと、形式的で堅苦しく思えてくるかもしれません。

しかし、同じ部材で構成していたとしても、大きさのバランス、曲線の流れ方、材料の選び方、その他多数のこまかい配慮の違いが、建築の奥行きや細部の陰影、面の構成、質感の違いとなって表れ、その建築の個性となります。

春日大社の建築群では、共通の特徴を持った建物を見比べられるため、それがよく感じられます。

 

鮮やかな社殿の神聖な空気感と、簡素な建築が持つおおらかさが緑とマッチして、特別なゆったり感を醸し出しています。境内をのんびりと歩く鹿たちもそれを助長しています。

境内全体を回るには、それなりの距離を歩くので時間がかかりますが、観光や建築見学を超えた「場の空気感の体験」が強い意味を持つ場所です。近くには、東大寺、興福寺をはじめとする魅力的な社寺が多く、目移りしてしまうのですが、可能な限り時間にゆとりをもって、ゆっくりと歩きながら境内全体を堪能したいものです。

 

このコーナーは匠弘堂の設計技術チームが担当しています!次回もお楽しみに。

第1回記事はこちら
第2回記事はこちら
第3回記事はこちら
第4回記事はこちら

 書き手:宇塚(匠弘堂・設計士)

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